憶測

(注意:これはあくまでも憶測です!)

シンフォニア・コンチェルタンテのヴィオラ・ソロは、モーツァルトが弾いた!?

ピアノはもちろんのこと、ヴァイオリンもヴィオラも弾けたモーツァルトは、父親とともにザルツブルクのオーケストラのコンサートマスターでした。しかし、“本場”イタリアから呼び寄せられたヴァイオリニストが一番偉く、一番給料が高く、そして大司教(お殿様のような方)のお気に入りでした。

モーツァルトが書いたヴァイオリンコンチェルトを、そのイタリア人は弾いては気に食わず、モーツァルトにまた書かせてまた弾いては気に食わず、ということを繰り返しました。そのおかげで次々と名作が生まれて、今や世界中のヴァイオリニストにとって大切な、たいへん美しい曲が5曲も出来上がったわけですが。

でもモーツァルトは、ヴァイオリンコンチェルトは5曲でやめてしまった。

さて、これらのヴァイオリンコンチェルトを書いた後、ヴァイオリンソロのために書いた最後の(!)作品が、今回の演奏会で取り上げる、『ヴァイオリンとヴィオラのためのシンフォニア・コンチェルタンテ』です。

この曲は変ホ長調という、弦楽器にはとても弾きにくい調性で書かれています。そんな調のヴァイオリンコンチェルトって、古今東西今昔、ちょっと思いつかないです。そのくらい弾きにくいし、響かない。ヴァイオリンに向いていない。

でも、独奏ヴィオラのパートだけがニ長調で書かれています。

ん?

つまり、ヴィオラの調弦を半音高くすることによって、おそらく当時は地味であったヴィオラの音を、より輝かしくした。また、ニ長調の方が弾きやすいということもあります。開放弦が使えるので倍音も豊かです。

モーツァルトはこうして、ヴィオラが目立ち、ヴァイオリンは弾きにくいようにしたように思われます。

さて、ここからが私の憶測ですが、モーツァルトはそのイタリア人のヴァイオリニストにこの難しいパートを弾かせて、自分はヴィオラを楽々と演奏して見せたのではないか。

そんなことはどこにも書いてありませんし、初演がどこで誰によって行われたかもわかっていないようですから、憶測は膨らみます。どうもそんな気がします。モーツァルトがそんなイタズラをしたなんて、想像するとなんだか楽しそうですね。

現在、ヴィオラのソロパートを実際に半音上げて演奏することは少ないと思います。ですから結局は、ヴィオラのパートもものすごく難しいのです。このことを今回のコンサートのヴィオラのソリスト、佐々木亮さんの名誉のためにお断りしておきます!!

今回はこの曲を弦楽合奏に編曲して演奏します。耳新しい箇所もあるかと思いますが、2人のソリストの名技の合間に、こちらもお楽しみいただければと思います。

佐藤俊太郎