ホグウッドの思い出

クリストファー・ホグウッド。イギリスが産んだ最も博学にして行動力を持った音楽家の1人。その名も『ヘンデル』という、ど真ん中直球勝負の分厚い本を書いてみたり、モーツァルトの交響曲全集、というよりは交響曲大全と呼びたくなる、41曲をゆうに超えるその録音は世界を圧倒しました。

そんな彼に一度だけあったことがあります。どうしてもこの人に訊いておきたいことがあって。

「初めまして。いきなりですが、モーツァルトのパリ交響曲の緩徐楽章ってふたつありますけれど、どちらが先に書かれたのですか?」

「モーツァルトの手紙の中には、どちらも別の性格を持っていて、後で書いた方を気に入っていると書いてあるが、それだけではわからない。これはわからないことなんだ。」

訊いた瞬間に一息で説明されて、私はその知識に圧倒されました。こういう人がいるんだ、という感激でいっぱいで、その後たしかヘンデルの話もしたのですが、残念なことにそちらはさっぱり覚えていません。

ホグウッドは面白い楽譜を作っていて、ジュピター交響曲の弦楽五重奏版とか、今回のシンフォニア・コンチェルタンテの弦楽六重奏版とか。

これらは昔、オーケストラを聴きに行けない、あるいは、それらの曲が滅多に演奏されないので、じゃあ家で弾こうという人々、あるいは、うちの楽士たちに演奏させようというような貴族、どちらにしても高尚な趣味ですが、そうした人たちのために編曲されたものです。

ホグウッドはこれらの楽譜を整理して出版しています。探せば他にもありそうです。

今回、シンフォニア・コンチェルタンテを弦楽合奏で演奏するにあたって参考にしたのはこの楽譜です。お楽しみに。

佐藤俊太郎