グリーグと蛙

グリーグは自分のことを、小さな、ささやかな曲を作る人だと思っていたそうです。とても心優しい人で、小さな陶器の蛙をポケットに入れていていつも触っていたそうです。人見知りするので、お守りに触っていたかったんですね。

もちろんコンサートの時にもその蛙はポケットの中にあったそうです。彼は非常に有能な指揮者でもあったのですが、100人を相手にしながら蛙を触っていたとは。私にはその気持ちは痛いほどわかります。


そんな彼の元に、イプセンの新作『ペール・ギュント』の劇音楽の作曲依頼が来ます。何しろこの劇、主人公が世界中を駆け巡る荒唐無稽な設定。とてもただの演劇としては発表できないので、音楽をつけて上演しようじゃないか、ということになったわけです。

グリーグはこの誘いを2度断っています。自分は「小品」を作る作曲家だからと言って。しかし、三顧の礼、かどうかわかりませんが、最後には渋々引き受けます。しかしこの曲がグリーグの名前を今に至るまで有名にしたわけですから人生何が起こるかわかりません。

この作品、私の大好きな作品です。きっかけは、ロイヤル・アルバート・ホールでのオーケストラ、合唱、独唱、語り手、を総動員しての公演でした。語り手は、このジャーナルで以前取り上げた、サイモン・カーロウでした。この語りが素晴らしかった。

「みなさんは、ペール・ギュントの音楽をよくご存知です。でも、ペール・ギュントは何者なのか。オーセはなぜ死ぬのか。ソルヴェイはなぜ歌を歌うのか、アニトラはなぜ踊るのか。それをこれから一緒に体験しようではありませんか。」

ペール・ギュント組曲は劇音楽からの抜粋でもちろん良い曲なのですが、この劇音楽には他にもたくさんの素晴らしい曲があります。グリーグはもちろんとても繊細な人でしたが、とてつもなく迫力のある音楽も作れた人でした。

蛙といっしょに。