猛暑のチャイコフスキー

まだまだ寒い日が続きますが、こんな話題はいかがでしょうか?

昨年の夏は日本中、そう、北海道でも猛暑でしたね。何年か前にもそんな時がありました……

場内アナウンス。

「本日のコンサートでは気温が非常に高くなることが予想されますので、男性団員は燕尾服を脱いで演奏します。」

北海道。愛別町。ここは夏になると何日間か驚異的な暑さに見舞われるという。よりによってその脅威的な時に来てしまった。

昼の公演。外気温は30度を軽く超えている。会場は中学校の体育館。冷房なし。窓全開。観客の熱気で外より室内の方が暑い。

コンサート前半はメンデルスゾーンの『真夏の夜の夢』。これはまあなんとか演奏した。

休憩時間。指揮者のみ特別に、冷房の効いた理科実験室を使わせてもらう。この部屋以外に冷房はないらしい。団員の皆さんごめんなさい。とにかくシャツを着替える。なにしろ指揮者は燕尾服を脱ぐわけにはいかない。

後半はチャイコフスキーの5番。情熱的な曲。

実はこの時はツアーで、前日には別の町で同じプログラムを演奏した。そこは涼しかった。演奏も「クール」とは言わないが「通常通り」だった。

しかしこの暑さの中のチャイコフスキーは燃えに燃えた。

指揮者もオーケストラも火ダルマのような勢いで第4楽章に突入。そこからは熱演を超えて、もはや『爆演』と化していった。もうどうにも止まらない。どうして止まらないのか誰にもわからないけれど、もうこうなったらこの勢いのまま最後まで行くしかない。

最後のジャジャジャジャンが終わった時、オーケストラから「は〜〜〜」とため息が漏れた。

私は理科室をしばらく出られなかった。燕尾服が重かった。

その後このオーケストラでは、
1)暑い会場でのコンサート
2)チャイコフスキーの5番
3)佐藤俊太郎

のキーワードのうちいずれか2つが重なると『あのチャイ5』の話題になるのだそうである。

ある日このオーケストラから頼まれた。

「そういうわけだからもう一度チャイコフスキーの5番をお願いしたいのですが。」

どういうわけですか。

佐藤俊太郎


アンサンブル・アール・ヴィヴァン 第3回公演


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