幻の釣り大会

フィンランドは非常に文化的な国で、国家予算で大小およそ20のオーケストラを運営している。国の人口は500万人。

クオピオ交響楽団は、私との2回のコンサートの後、首席客演指揮者というポジションで私を招いてくれた。

クオピオは人口10万人。首都ヘルシンキでも50万人都市なので、クオピオはフィンランドでは大都市。客席数1000人のホールが毎週満員になる。街の人の100人にひとりがオーケストラのコンサートに来る計算。

ここで私は毎年10公演を指揮。2枚のCDを作った。国営なので、たくさんのリハーサルができて嬉しかった。

あるリハーサルの日の朝、コンサートマスターが指揮者室に来た。

「ホールの前の湖もよく凍ったし、今日はいい天気なので、リハーサルを早く切り上げて氷上釣り大会をするというのはどうかと思うのだけれど」

「馬鹿言っちゃいけねえ(なぜか江戸っ子)」

これは指揮者としては当たり前の反応だろうとその時は思ったのですが。。。

でも今だったらこう言えるかもしれない。

「わかった、今日はみんなでリフレッシュして楽しもう。そしてまた明日からいい音楽を作ろう」

フィンランドの冬は長くて、そして暗いです。リハーサルに来るときは真っ暗で、帰りも真っ暗。

やっぱりみんなで釣りした方が良かったかなあと、今でもたまに考えることがあります。

佐藤俊太郎