「私のところに、指揮者になりたいという若者が来ると、まずはベートーヴェンの交響曲を全て覚えてから出直してきなさい、と言うことにしています」
朝比奈隆先生はご著書の中でそうおっしゃっておられました。
それを読んだ少年さとうは、
「よし、じゃあ全曲演奏してからお会いしようじゃないか」(ちょっと偉そうなのは若かったからだと理解してください)
そう思ってオーケストラを作って(その名も Chamber Orchestra Ludwig)、とんかつも作って(過去のジャーナル参照)、とにかく全9曲を演奏しました。第九を演奏し終わって思ったのは、一通りは演奏したけれども、これらは一生かけて演奏していくものなのだろうな、ということ。天を仰ぎ見るような感じ。
「ベートーヴェンへの道は巡礼ですな。巡礼とは辿り着いてはいけない。」
そうおっしゃる朝比奈先生のオーケストラ、大阪フィルを初めて指揮した時、幸運にも先生にお会いすることができました。先生のご著書にあった通り、9曲全曲を自分でオーケストラを作って演奏しました、とご報告しました。
「ベートーヴェンは教科書ですからな。このオーケストラだって私が作ったんです。でも本当にやったのは偉いね。」
後々に聞いた話によると、その日先生はたいそうご機嫌で、
「いやあ、ほんとにやってくるやつが出てくるとは思わんかったわ。大したもんだ。わっはっは。」
やりましたよ。わっはっは。
佐藤俊太郎