ジャンプ台の上

「おはよう。モーツァルトのレクイエム指揮したことある?」

「ロンドンでリハーサルをね」

「今日振れる?」

「今日? どうしたの?」

「指揮者の代役を探してるの。オケはラハティ。引き受ける?」

「わかった。引き受けるよ。」

「よかった。今日が合唱のリハーサルで3日後が本番。詳しいことはFaxでね。じゃあよろしく。」

リハーサルと演奏会の会場は高台にある教会。しかし指揮台からの景色が非常にユニークです。私の右方向、チェロとコントラバスの後方、遠くにスキーのジャンプ台が見えます。

リハーサルの後、私はふとした好奇心からそのテッペンに登ってみました。まったく立てませんでした。

でも本当はこのジャンプ台よりも、この指揮台に立つ方がずっと怖いことだったはず。あの神聖なるレクイエムを指揮する。しかも頼まれたのはつい先程のこと。

それでも若さゆえの勢いというのは、うまく使えば大きな力になるものです。まさに全力で、全身で、この大曲に体当たりした、ずしりとした手応えは今も私の中にあります。

あれから20年。

レクイエムの弦楽合奏版の存在を知り、EAVで来年演奏しようと計画していたまさにそのとき、1通のメールを受信しました。

「アンサンブル・アール・ヴィヴァンでレクイエムを演奏していただけませんか。弦楽合奏版で。代役です。」

レクイエムは代役にかぎる、か。

明日が演奏会です。

メンバーの若さの勢い、そう、あの時の私と同じです。ものすごい集中力のリハーサルでした。みんなありがとう。明日も期待できるぜ。

佐藤俊太郎


DATE

2021年9月27日(月)18:45 開演(18:00 開場)
東京文化会館小ホール
〒110-8716  東京都台東区上野公園5-45


PROGRAM

指揮:佐藤俊太郎
コンサートマスター:神谷美千子
アンサンブル・アール・ヴィヴァン(弦楽合奏)

もうひとつのレクエイム

ディヴェルティメント ヘ長調 K138
── Divertimento in F K138

交響曲 第41番 ハ長調 K551「ジュピター」(リヒテンタール編曲)
── Sinfonie in C( “Jupiter-Sinfonie” )K551 von Lichtenthal

レクイエム ニ短調 K626(リヒテンタール編曲)
── Requiem in d K626 von Lichtenthal


チケット

全席自由(税込)一般 5,000円、学生 2,000円

東京文化会館チケットサービス
Tel. 03-5685-0650
https://www.t-bunka.jp/tickets/

日本モーツァルト協会
Tel. 03-5467-0626(月・水・金)
※学生券は日本モーツァルト協会のみ取り扱い