林檎の木

私のヴァイオリンの先生の家はロンドン郊外にあった。広いお庭があった。

1時間のレッスン料でいいけど、私は短いレッスンは好きじゃないのでちょっと長くなるからね」

ロイヤルアカデミーの教授を退官されて時間があったということもあったのでしょうが、これは実は今も昔も全ての先生の願いだと私は思います。時間があるということは素晴らしい。先生にも生徒にも。

それにしてもレッスンは回を追うごとに長くなっていき、ついに3時間に達した。

ある日のレッスンが終わった時、

「おやつの時間だから焼きリンゴを作ってあげるわ」

そう言うと先生は玄関のドアを開け、庭にあった林檎の木からリンゴをふたつ取ってきた。

芯をくりぬき(そういう道具があるのだ)、その穴にレーズンを詰め、バターを乗せ、上にハチミツをかけた。オーブンに入れてはい出来上がり。

「ギリシャのヨーグルト(最近日本でも流行ってきましたが)をつけて食べると美味しいのよ」

と言ってふたりでぱくぱく食べた。なんとも浮世離れしたレッスンであった。まるで童話みたいだ。