ゲンナジー・ロジェストヴェンスキーがロンドンフィルを指揮するというのでリハーサルを見に行ったら、指揮者がリハーサルをすべて取りやめたとのことだった。どうなることかとコンサートの前のゲネプロ(ステージ練習)を見に行った。
ロジェストヴェンスキーは何も言わずにコンマスと握手。何も言わずにリハーサルスタート。
1曲目、ラフマニノフのヴォカリース。1回通して終わり。
2曲目、ラフマニノフのパガニーニ・ラプソディ。1回通して終わり。
そこで初めて指揮者が喋った。
「シンフォニーの難しいところを一度弾いてみよう。」
2、3分全員で弾いたであろうか。指揮者はオケを止めて、
「では曲の初めから」
オーケストラに緊張が走る。何しろこの曲、みんな弾いたことがない。ショスタコーヴィッチの交響曲第12番。
2、3分弾いたところで、再び指揮者がオケを止めた。何も言わずスコアを持った。無言でコンマスと握手をした。そして確かな足取りで素早くステージから立ち去った。
呆然としているオーケストラ。これで今日コンサートで弾くのか?!
そしてその夜。正真正銘のぶっつけ本番。それを知っているのは観客の中で私だけ!
こんな凄まじい音が出るのか! どこにもキズがない。とてつもない迫力でありながら繊細さを失わない。名演中の名演である。
指揮棒の魔術師。確信犯。錬金術師。ブラボーの嵐の中、ロジェストヴェンスキーはオケを見ていたずらっぽく微笑んだ。
さすがはテンシュテットに鍛えられたロンドンフィル。それにしても怖かっただろうなあ。
生涯忘れられない演奏会です。
(注:これは例外中の例外です。EAVはちゃんとバッチリリハーサルをしますよ、もちろん!)
佐藤俊太郎
アンサンブル・アール・ヴィヴァン 第2回公演
本番まで、あと少し! 第2回公演のチケット発売中!
2021年10月15日(金)18:30開演(18:00開場)
三鷹市芸術文化センター 風のホール