「マルコム・アーノルドの音楽について教えてください」
インタビューで質問された。フィンランドの街のオーケストラを指揮しに行った時、コンサートの前日に地元の新聞社でインタビューを受けた。同行したのはフィンランド人とは思えないラテンなギタリスト。彼にコンチェルトをお願いしたのは私。ギターといえばアランフェス。コンサートのメインはモーツァルトのジュピター。これも選んだのは私。
しかしどういうわけか、コンサートの初めにマルコム・アーノルドのシンフォニエッタを演奏して欲しいとオーケストラからリクエストがあり(しぶしぶ)引き受けたのだった。
「アーノルドはもちろんシリアスな作曲家です。しかし彼には英国人特有というのか、ユーモアがあって、たとえば『3つのVacuum Cleaners のためのコンチェルト』なんていう曲を書いていたりもするんですよ。明日の曲もそんなウィットがあると思いますよ」
「Vacuum Cleanerってなに?」
その新聞記者はあんまり英語ができないようで、ギタリストに訊いている。
「掃除機」
「はあ……」
それでその質問は終わりになった。
次の日の朝、ギタリスト君が満面の笑みでやってきた。
「新聞記事を読んだらさ、『指揮者曰く、マルコム・アーノルドの音楽は掃除機みたいだ』って書いてあったぜ。アッハッハ!」
後になって知ったが、そのコンサートの日は、サー・マルコム・アーノルドの誕生日だったそうだ。
でも彼ならきっと笑って許してくれるんじゃないかなあ。
佐藤俊太郎